Search
Professionals
21-05-19 14:18
1. 事件の経過及び大法院判決の要旨
韓国のジェネリック社であるハンミ製薬は、Eli Lillyの「Olanzapine」オリジナル医薬品特許に対し無効審判を請求して特許法院で勝訴した後、ジェネリック医薬品の販売予定時期を変更して直ちに販売を強行した。また、他の韓国ジェネリック社である明仁製藥も上記特許法院の判決を確認し、直ちにジェネリック医薬品を販売し始めた。このようなジェネリックの上市に伴い、保健福祉部長官は、Eli Lillyのオリジナル医薬品の上限価格を既存の上限価格の80%に引き下げると告示した。
しかし、その後、大法院が上記特許法院の無効判決を取り消し、Eli Lillyの特許が有効であるという判決を言い渡したため、Eli Lillyはハンミ製薬及び明仁製藥を相手取ってそれぞれ損害賠償を請求した。
両事件ともEli Lillyの特許権侵害による損害賠償請求を認容した点で違いがなかったが、薬価引き下げに対する損害賠償の責任については互いに相反する判決が下された。ハンミ製薬の損害賠償訴訟を審理したソウル高等法院が、薬価引き下げに対するジェネリック社の損害賠償責任を否定したのに対し、明仁製藥の損害賠償訴訟を審理した特許法院は、ジェネリック社の損害賠償責任を認めた。
下級審における相反する判決に対して、大法院は2020年11月26日、ジェネリック社の薬価引き下げに対する損害賠償責任を否定する判決を最終的に言い渡した(大法院2020年11月26日宣告2016ダ260707判決、及び大法院2020年11月26日宣告2018ダ221676判決)。
大法院は、まず、オリジナル医薬品の上限価格が引き下げられたのは、保健福祉部長官が関連規定により引下率及び引き下げの施行時期を決定したためであり、ジェネリック社がジェネリック医薬品を製造·販売したためではないので、ジェネリック社のジェネリック医薬品の製造·販売行為が、オリジナル医薬品の上限価格引き下げの原因とはいえない、と判示した。
また、Eli Lillyがオリジナル医薬品の上限価格引き下げという不利益を被ることになった面は認めるが、ジェネリック社が特許法院の判決に基づいてオリジナル医薬品特許の無効可能性を疎明することにより、ジェネリック医薬品の販売予定時期を適法に変更申請している点、保健福祉部長官も関連法規に従ってオリジナル医薬品の上限価格を引き下げている点、および関連規定の趣旨が国民健康保険の財政を健全化して円滑な療養給与を持続的に保証することにあるという公益的な側面を考慮すると、上記のようなEli Lillyの不利益は、韓国が薬価引き下げ制度を採択した結果によるものに過ぎない、と判示した。
結論として大法院は、Eli Lillyがオリジナル医薬品の上限価格に対して有する利益は、このような制度の枠内で保護されるものに過ぎず、当該制度で定めた手続きによる結果がEli Lillyに不利に作用したとしても、これをジェネリック社の責任とすることはできないので、ジェネリック社の行為が違法である、又はジェネリック社の行為とEli Lillyのオリジナル医薬品の上限価格引き下げとの間に相当の因果関係があるとはいえない、と判示した。
2. 大法院判決の意義及び韓国製薬市場の見通し
上記大法院の判決は、約10年間におよぶ訴訟の最終結果であって、韓国で初めてオリジナル社の薬価引き下げ分に対する損害賠償の可否を扱ったものである。
ジェネリック社が敗訴する場合、数百億ウォンというオリジナル医薬品の薬価引き下げによる損害を負担することになるため、ジェネリック社の不安も相当に大きかったが、上記大法院の判決により、ジェネリック社は今後とも活発にジェネリック医薬品の早期上市のために特許挑戦できるようになった。
また、韓国では2020年7月からジェネリック医薬品の段階式薬価制度が新たに導入された。段階式薬価制度とは、ジェネリック医薬品の乱立を防ぐために薬価に差等を設けることをいう。主な内容は次のとおりである。
「生物学的同等性試験の実施と登録された原料医薬品(DMF)の使用の有無によって薬価が変わる。2つの条件をいずれも満たす場合、オリジナル薬価の53.55%、1つの条件を満たす場合、45.52%が適用され、2つの条件をいずれも満たさない場合、オリジナル薬価の38.69%が適用される。また、給与登載の順序によっても薬価が差等適用され、21番目のジェネリックからは同一製剤の最安値とオリジナル薬価の38.69%のうち低い価格の85%が適用される。」
これまではすべてのジェネリックが最高値(53.55%)を受けることができたが、今後はジェネリック医薬品の開発に対する努力に基づいて薬価を差等付与するというのが新たに導入された段階式薬価制度の趣旨である。製薬業界は、新しい段階式薬価制度の導入により、今後、ジェネリック市場への無分別な進出が減少すると予想している。
また、給与登載の順序が薬価に大きな影響を与えることから、ジェネリック医薬品の早期上市を希望するジェネリック社は積極的に特許挑戦に乗り出すものと予想される。さらに、上記大法院判決により、ジェネリック社はオリジナル医薬品の薬価引き下げによる損害賠償の負担が減らされたので、今後特許挑戦はさらに増加するものと予想される。
したがって、オリジナル社は特許紛争だけでなく薬価引き下げの危険に対しても別途備える必要があると思われる。