選択発明とは、先行発明に上位概念が記載されており、これに含まれる下位概念のみを構成要素とする特許発明をいう。これまで大法院は、選択発明の進歩性が認められるためには、選択発明は先行発明とは質的に異なる効果、又は量的に顕著な効果がなければならず、さらに、選択発明の明細書には先行発明に比べてそのような効果を有することが具体的に記載されていなければならないと判示していた。このような判示に従い、韓国実務は選択発明の進歩性判断時に構成の困難性は検討しないまま、単に効果のみを考慮していた。
しかし、最近、大法院は選択発明の進歩性判断時にも構成の困難性と効果の顕著性の両方を考慮しなければならないと判示し、選択発明の進歩性判断も一般的な他の特許発明の進歩性判断の原則に従って判断しなければならないことを確認した(大法院2021年4月8日宣告、2016フ10609判決)。
1. 事件の経過
複数の韓国のジェネリックメーカーが、BMSの特許発明(アピキサバン物質特許)は選択発明であって進歩性が認められないことを理由に無効審判を請求した。これに対して、特許審判院は2018年2月28日付審決にて上記特許発明の進歩性を否定した。しかし、上記無効審判とは別個にBMSが韓国のジェネリックメーカーを相手取って請求した特許権侵害禁止仮処分申請を審理したソウル中央地方法院は2018年6月27日、当該特許発明の進歩性を認め、これに基づくBMSの侵害禁止仮処分申請を受け入れ、特許審判院とは相反する決定を下した(2018カ合20784)。しかし、その後、上記無効審判の控訴審を審理した特許法院は2019年3月29日、当該特許の進歩性を否定する判決を下した(2018ホ2717)。このような状況の下で、韓国の製薬業界では最終審である大法院が上記特許の進歩性をどのように判断するかについて関心が高まっていた。
2. 大法院の判断
4月8日に宣告された大法院の判決内容は下記のとおりである。
特許発明の進歩性を判断するにあたっては、特有の課題解決原理に基づいて有機的に結合した全体としての構成の困難性を検討しなければならず、このとき、結合された全体構成としての発明が有する特有の効果も併せて考慮しなければならず、このような進歩性判断基準は選択発明の進歩性を判断するときにも同様に適用される。
選択発明の構成の困難性を判断するときには、先行発明にマーカッシュ形式などで記載された化学式とその置換基の範囲内に理論上含まれ得る化合物の個数、通常の技術者が先行発明にマーカッシュ形式などで記載された化合物から特定の化合物や特定の置換基を優先的に又は容易に選択する事情や動機付け又は暗示の有無、先行発明に具体的に記載された化合物と特許発明との構造的類似性などを総合的に考慮しなければならない。
従来の選択発明に対する大法院の判例は、構成の困難性が認められ難い事案において、効果の顕著性があれば進歩性は否定されないという趣旨なので、選択発明であるという理由だけで構成の困難性を問うこともせずに、効果の顕著性の有無のみで進歩性を判断してはならない。
本事案において、先行発明は、因子Xa抑制剤としての窒素含有ビシクロヘテロ化合物(Nitrogen Containing Heterobicycles as Factor Xa Inhibitors)に関するものであって、66種の母核構造及び多様な置換基の組合せにより理論上数億個以上の化合物を開示している。これに対して、特許発明は、因子Xa抑制剤としてのラクタム環を有する化合物のうちアピキサバンを請求している。
先行発明は、特許発明のアピキサバンが有するラクタム環置換基については具体的に開示していない。また、特許発明のアピキサバンは、改善されたXa抑制活性及び選択性、改善された薬動力学的効果、改善された併用投与効果を示す。このように、先行発明と特許発明は注目している化合物及びその構造が異なり、さらに、先行発明に特許発明の化合物の構造を優先的に又は容易に選択する事情、動機付け又は暗示があるともいい難いので、通常の技術者が先行発明から技術的価値がある最適の組合せを見出して特許発明に到達するまでは、数多くの選択肢を組合せながら試行錯誤を繰り返さなければならないと思われる。
つまり、特許発明には構成の困難性が認められ、改善された効果も有するので、先行発明に対して進歩性が認められる。
3. 意義及び示唆点
今回の大法院の判決では、既存の大法院の判決を破棄する代わりに、既存の大法院の判決は、選択発明の構成の困難性が認められ難い事案においては、効果の顕著性が立証されれば進歩性が認められ得るという意味であると判断した。したがって、今回の大法院の判決は歪曲されていた選択発明の進歩性判断を原則に戻したという点に意義があるといえる。
選択発明に関するこれまでの韓国実務は、構成の困難性は考慮せず、先行発明に比べて異質であるか、又は量的に顕著な効果を有することが明細書に明確に記載されている場合にのみ進歩性を認めてきた。特に、発明者自ら選択発明であることを認識できていない場合、このような厳格な明細書の記載要件を満たすことは非常に難しく、選択発明の進歩性が認められることは極めて稀だった。今回の大法院の判決では、構成の困難性を認めたが、効果に関する厳格な明細書の記載要件が要求されるかについては判断していない。しかし、今回の大法院の判決の基礎となる特許法院の2018ホ2717判例では、選択発明の効果に関する明細書の記載要件を具体的に判示しており、このような判示内容は既に審査基準に反映されている。したがって、構成の困難性が認められない選択発明の場合、従来のように効果に関する厳格な明細書の記載要件が要求されるとみるべきだが、構成の困難性が認められる選択発明の場合には、効果に関する明細書の記載要件も緩和されると判断される。