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22-07-21
最近、大法院は、結晶形発明の進歩性も一般的な発明と同様に構成の困難性を必ず判断しなければならないという趣旨を説示することにより、結晶形発明の進歩性が認められる基準を緩和する非常に意味深い判決(2022年3月31日宣告2018フ10923判決)を下した(※ 訳注:当該判決は、当所が代理して勝訴した判決です)。
韓国では2011年の大法院2010フ2865判決以降、結晶形発明が公知の化合物と異質な効果を有するか、量的に顕著な効果を有する場合に限って進歩性を認めてきた。すなわち、化合物の溶解度や安定性等を向上させるために結晶形の存在を検討し、効果を確認することは通常行われていることであるとみて、結晶形発明は構成の困難性がないという前提の下、効果が公知の化合物に比べて異質な場合、又は量的に顕著な場合にのみ結晶形発明の進歩性を認めてきた。ところで、結晶形発明が従来の公知の化合物と異質な効果を有することは極めて稀であり、量的に顕著であるという基準も非常に厳しく、実際に韓国で公知の化合物の新たな結晶形を請求する結晶形発明の進歩性は認められにくいのが実情だった。しかし、今回の大法院の判決はその基準を緩和した。
事件の要旨及び大法院の判示内容
本件はタイロシン第1型(Form I polymorph of tylosin)に関する発明であり、特許庁の審査過程においてタイロシン化合物を公開した先行文献により進歩性が否定されることを理由に拒絶決定された。その後、出願人が提起した拒絶決定不服審判及び審決取消訴訟においても、特許審判院及び特許法院にて、従来の実務通り拒絶決定と同じ趣旨で進歩性が否定された。
しかし、大法院は、以下のように本件結晶形の構成の困難性を認め、進歩性が認められると判断して、特許法院の判決を覆した。
- 結晶形発明の進歩性判断の際に、多形体スクリーニングが通常行われるという事実だけで結晶形発明の構成の困難性が否定されると断定してはならず、結晶形発明の構成の困難性を判断しなければならない。
- 結晶形発明の構成の困難性を判断する際には、1)先行発明化合物の結晶多形性が知られていた、又は予想されれていたか、2)先行発明に請求する結晶形に至り得るという教示や暗示又は動機があるか、3)請求する結晶形が先行発明化合物に対する通常の多形体スクリーニングにより検討され得る結晶多形の範囲に含まれているか、4)請求する結晶形が予測できない有利な効果を有しているか、を総合的に考慮しなければならない。
- このような法理に照らしてみると、先行発明はタイロシン化合物を開示しているだけで結晶形については言及がなく、本件出願当時、タイロシンが多様な結晶多形を有することが知られていたといえるだけの資料もなく、通常の多形体ストリーニング方式だけで本件のタイロシン第1型結晶形を容易に導き出すことができるかも明らかでない。また、本件の明細書によれば、本件のタイロシン第1型結晶形は熱力学的に安定し、低い吸湿性を有していることが分かるが、このような効果が先行発明から予測しえる程度のものであるとは断定し難い。したがって、本件のタイロシン第1型結晶形には構成の困難性がある。
大法院判決の意義
大法院は、今回の判決を通して、多形体スクリーニングが通常行われることを理由に結晶形発明の構成の困難性がないと断定してはならず、一般発明と同様に構成の困難性を判断しなければならないとした。また、結晶形発明の構成の困難性を判断する際に考慮すべき具体的な基準を提示した。これにより、単に公知の化合物の結晶形であるという理由だけで進歩性が容易に否定されたこれまでの実務とは異なり、請求する結晶形を導き出すことが困難だったという事情や、結晶形が有する有利な効果を立証することにより、結晶形発明の進歩性が認められる可能性が高くなったと思われる。
特に今回の判決は、2021年に大法院が選択発明の進歩性判断の際にも構成の困難性を必ず判断しなければならないとした2019フ10609判決(※ 訳注:当所2021年夏号ニュースレターをご参照ください。)とその趣旨を同じくするものと思われる。これにより今後、医薬化合物分野においては、選択発明や結晶形発明のような特殊な形態の発明も、一般発明と同じ進歩性判断基準の適用を受けるようになり、物質特許の後、その改良発明に関する後続の研究と特許出願が活発に行われるものと予想される。