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24-11-27
最近、特許法院は故意的商標権侵害に対する損害賠償算定において、懲罰的損害賠償を認める判決 (特許法院2024.09.26 宣告2023ナ11399 判決)をくだした。全体損害発生期間のうち、故意的商標権侵害が認められる期間に対し懲罰的損害賠償額を初めて認めたものとして意味のある判決だ。
懲罰的損害賠償とは、故意に商標権を侵害した場合、算定された損害額の最大3倍まで賠償可能とする規定で、2020年10月20日付で施行された。当該規定によれば、① 侵害行為がなかった場合に権利者が販売することができた金額、② 権利侵害者が侵害行為を通して得た利益額、③ 商標の使用に対し権利者が合理的に受け取ることのできた金額、④ 弁論全体の趣旨及び証拠調査結果により算定した金額等を考慮して損害賠償額を確定した後(商標法第110条第1項乃至第6項)、i) 侵害行為により該当商標の識別力または名声が損傷した程度、ii) 故意または損害発生のおそれを認識していた程度、iii) 侵害行為により商標権者または専用使用権者が被った被害規模、iv) 侵害行為により侵害した者が得た経済的利益、v) 侵害行為の期間・回数等、vi) 侵害行為にともなう罰金、vii) 侵害行為をした者の財産状態、viii) 侵害行為をした者の被害救済努力の程度等を総合的に考慮して認められた損害額の3倍を超えない範囲で懲罰的損害賠償額を定めることができる(商標法第110条第7項及び第8項)。
事件の要旨および特許法院の判示内容
本件は、株式会社アイミル(아이밀、以下‘アイミル’)が“”及び“”商標(以下‘アイミル商標’)を乳幼児食品等に対して登録を受け使用していたところ、同種業界に従事する ILDONG foodis Inc.(以下‘If社’)が同一名称からなる商標“”(以下‘If社商標’)を乳幼児食品に使用しはじめたことが問題となった事例である。アイミルはIf社に対し、1) 「If社商標は先登録であるアイミル商標と類似する」ことを理由とする商標登録無効審判、2) 商標権侵害禁止訴訟、及び 3) 損害賠償請求をそれぞれ提起した。If社商標は2021年に特許法院判決が確定し商標権登録が無効となり、商標権侵害禁止請求訴訟においてもアイミルの勝訴判決がくだされた。しかし、If社はIf社商標権が無効となり、商標権侵害禁止請求訴訟で敗訴したにもかかわらず、If社商標をその後も使用し続けた。
アイミルはIf社の侵害行為のうち、懲罰的損害賠償規定(商標法第110条第7項)が施行された2020年10月20日からの侵害行為に対しては懲罰的損害賠償が認められなければならないと主張した。1審判決では相当額の侵害賠償額を認めたが、総合的な事情を考慮するとき、懲罰的損害賠償規定は適用できないと判断した。
しかし、特許法院は下記のとおり懲罰的損害賠償を認め、1審判決よりもさらに高額の損害賠償額を認めた。
- If社商標“”がアイミル商標(“”、“”)と類似することを理由に登録無効が確定した2021年6月12日以降になされた侵害行為は故意的な侵害に該当する。
- 2018年1月頃から2023年12月31日までの侵害行為については6億ウォンの侵害賠償を認め、 i) 故意的侵害が認められる前の2018年1月から2021年6月12日までの侵害行為による損害額は5億ウォン、ii) 故意的侵害が認められる期間である2021年6月13日から2023年12月31日までの侵害行為による侵害額は1億ウォンと認められる。
- しかし、故意的侵害が認められる期間の損害額と関連して、① If社の故意的侵害行為によりアイミル商標の識別力が相当部分損なわれた点、② If社はアイミルに損害が発生しえることを認識していた点、③ 故意的侵害が認められる期間(約2年6ヶ月)が短くない点、④ If社商標を表示した広告を削除せずに商標権侵害行為を持続する等、アイミルに対する被害救済努力が十分でない点等を考慮するとき、本件に故意的侵害行為が認められる期間の損害賠償額は、先に認めた損害額1億ウォンの2倍となる2億ウォンと定める。
特許法院判決の意義
特許法院は、If社が「If社商標はアイミル商標と類似する」と判断され、その登録無効が確定したにもかかわらず、自社のSNSアカウントを通してIf社商標を継続して広告表示し、侵害製品の一部品目をオンラインやオフラインの流通経路を通して継続して販売していた点、インターネット検索サイトでIf社の該当製品に対するキーワード広告を継続していた点等の事情を考慮し、If社の侵害行為の故意性を認め、これにもとづき懲罰的損害賠償規定を適用した。
本件は懲罰的損害賠償制度の実質的な適用可能性を示す事例として、今後類似事件における判例形成に重要な役割をするものと期待される。特に、悪意的な商標権侵害に対し法院がより厳格な責任を科することにより、商標権者の権利を保護し、市場秩序を維持することに寄与することができる点で意義がある。これは商標権侵害に対する警戒心を高め、これからの商標権保護に対する法的環境を改善するのに肯定的な影響を及ぼすものと思われる。